家計と公害環境

1973年6月の第三水俣病の発表とそれに続く各地の汚染魚のニュースは、家計と不安を覚える消費者と沿岸漁業を恐怖に陥れました。かねてから日本の海洋汚染の激しさについて憂える声がありましたが、これが現実のものとなったのでした。しかも水銀やPCBは氷山の一角であって、この他にもまだ危険な物質が海を汚し、我々の環境を蝕んで気づかれないために、忘れられていました。海に区切りはなく、魚は自由に泳ぎ水銀を流す工場とPCBを流す工場が隣接していれば、魚の中には蓄積していき、なんらかの方法で汚染区域を指定したところで、その外側にもかならず汚れた魚がいるものです。魚に蓄積される有害物質は水銀とPCBだけではなく。鉛やカドニウム、飼などの重金属、化学工業から吐き出される合物、陸上で使われた農薬など、気づかれない物質を調べ上げれば高度成長のツケはとても支払いきれないものになります。日本国中隙間なく工場に占拠されでいるのではないかと思うぼどの過密状態であり、しがも水俣病にしてもイタイイタイ病にしても、工場が操業を開始してから数十年もたって病気に気づいたことからも分かるように、公害が遅れて出るのが普通であり、様々な物質で環境が汚染される多重汚染は、これがらも酷くなると考えた方が懸命です。しかしその一方で、もの腰をすえて調査するならば、この多重汚染を手ががりに、公害の因果関係をある程度まで解くこともできます。
残念ながら日本の行政には、その場しのぎの対策が多く、現実を直視しようとする姿勢がなく、PCB、水銀、鉛、カドミウム、農薬と次々に間題が出るたびに、生態学的にも何の関運もない調査をくり返してきました。これではお金の無駄使いによってGNPを増やすことに夢中になっていると言われても仕方がありませんでした。
もう一つ第三水俣病の発見によって誰の眼にも明らかになったのは、長期微量蓄積の危倹でした。特に水銀が脳に入ったら出にくく、これまでより長い生物学的半滅期をも辛いことが予想はされていましたが、この病気ではっきりしました。このような厄介な物質が明白な水俣病症状は起さない程度に少しすつ体内に入って来る場合に、どのような悪影響を人体に与えるかは、これまでの動物実験中心の中毒学では極めてつかみにくく、むしろ多数の住民の健康診断から、気長に共通点をつかみ出してゆくしかありませんでした。水俣病では動脈硬化などがこうした長期微量蓄積の影響としてほば確実になって来て、PCB中毒であるカネミ油症の患者にはガンで死ぬ人が多い事などは、新たな間題の所在を暗示していました。このような事態に対処するためには、行政を含めたすぺての既存機構は無力であることが立証されていますが、その実相はさらにはっきりと示されることとなるでしょう。

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